「スーパーカブ」と女子高生の物語 異色のラノベが大好評ヒット!
小説『スーパーカブ』が多くの人に読まれ、好評を得ている。主人公は、山梨の高校に通う平凡な女子生徒。通学用に手に入れたスーパーカブを通じて、新しい出来事を経験し、人と出会い、成長していく青春物語だ。作品を読んだホンダの広報担当者は、「バイクに初めて乗ったときの“楽しさとハラハラ感”を思い出させてくれた。主人公を応援したくなる作品」と、話している。
女子高生とスーパーカブを描いた『スーパーカブ』(角川スニーカー文庫/1~6巻・続刊)というライトノベルが、面白いと評判だ。2017年5月に第1巻が発行されると、反響が大きかったことからコミック版も出版され、現在、TVアニメ化に向けて製作が進んでいる。どこまで大きなヒットになるか楽しみな作品だ。
主人公は、山梨県北杜市の公立高校に通う女子生徒で、名前は「小熊」。両親がおらず、頼れる親戚もなく、友達もいない。趣味もなければ、将来の夢もない、内向的な女の子だ。そんな小熊が、通学のために手に入れたのが、ホンダのスーパーカブ。何もなかった小熊に、バイクのある生活が始まった――。今回は、この作品の魅力にフォーカスを当ててみたい。
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ライトノベルのなかでも異色の作品
かつて中高生向けに企画されたライトノベル。いつしか“ラノベ”と略して呼ばれるようになり、学園コメディ、ラブコメディ、SF、異世界ファンタジーなどの人気ジャンルを確立。登場人物はアニメチックなイラストによってビジュアル化されている。これがいまの一般的なラノベのスタイルで、レーベル(発行元)ごとにマニアな大人のファンも大勢いる。大ヒット作品ともなれば、世界中で何百万部と読まれるという。
『スーパーカブ』の編集を担当している兄部萌柚子さんは、次のように話す。「スニーカー文庫の作品のほとんどが男性の視点で書かれているなかで、主人公を女子高生にして、バイクとの出合いを描いていくという着想がユニークです。普通の日常が淡々と展開されるところや、登場人物のビジュアルにしても、ごく平凡な女の子に描かれているところなど、ラノベのなかではかなり異色な作品になっています。そもそも“スーパーカブ”という固有の製品名がタイトルになっているのは、当社では前例のないことです。もちろんこのタイトルでないと作品が成り立たないし、読者を引きつける大きな力にもなっていると思います」
書店のなかには、ライトノベルの書棚だけでなく、二輪専門誌のコーナーにもこの書籍を置くところがあり、バイク好きの人たちにも、ファンが増えているという。
バイクに乗ることで成長していく女子高生
小説の冒頭で、奨学金制度を使ってかろうじて高校に在籍できている小熊が、さほどの蓄えもないのにスーパーカブを手に入れるシーンは印象的だ。
学校までの道のりは山坂のため、自転車通学の小熊には原付の生徒が少しうらやましい。バイク販売店に立ち寄って商品を眺めるが、値札に驚いてため息をつく。その様子を見ていた老店主が店の奥から出してきたのは、埃まみれのスーパーカブだった。戸惑う小熊だが、なんと店主が提示した値段は、“1万円”。それならばとシートに跨ってみると、小熊の頬にフワッと初夏の風が吹き抜けた。トキメキを感じて「これ、買います」と、言葉が口をついて出た――というものだ。
と、納得できる展開だ。しかも「キャンペーン中だから」と、新品のヘルメットとグローブが小熊にプレゼントされるくだりでは、店主の心意気に拍手を送った読者も多かったに違いない。
このように、女子高生が衝動的にバイクを購入し、追って原付免許を取得、初めて公道を走り、徐々に運転に慣れ、学校にバイクで通うようになる。その流れのなかで、小熊にとって初めての出来事が次々と巻き起こり、それを経験していく。同じくカブに乗る仲間ができたのも大きい。バイクのある生活を通じて小熊は成長し、自立していくという青春物語だ。
兄部さんは、「私自身はバイクに乗りませんが、いち読者として、この作品を通して知らないバイクの世界を面白く垣間見ることができ、いろいろな“気づき”を楽しんでいます。バイクに乗る読者にとっては、バイクにまつわるいろいろな話にリアリティがあって、たとえば、ガス欠しそうになったときの小熊の不安感や、オイル交換やパンク修理を自分でやろうとするシーンなど、共感できる要素がふんだんに盛り込まれています。作者のバイクに関する引き出しが豊富で、それが小熊の日常にリンクしてるところが、この作品の身上だと思います」と、その魅力について話している。
執筆の動機は「バイクのある物語を想像するのが楽しい」
小説に次いで、『スーパーカブ』のコミック版は、2018年5月に発行され、現在書籍版・カクヨム版、第4巻まで発売されている。また今年5月に、TVアニメ版のPR動画がYouTubeで公開されると、1カ月で70万回もの再生を数え、作品の認知度はどんどん拡大している。
作者のトネ・コーケンさんにとって、『スーパーカブ』はまさに会心のデビュー作になった。執筆の動機について尋ねると、「バイクに関するいろいろな楽しみ方があるなかで、バイクのある物語を想像し、創作を楽しむ人間がここにいるということを伝えたかった」という。「あるときは、こんな人がバイクに乗っていたらいいなとか、バイクであんな出来事が起きたらいいなと思った話を書き、あるときは自分の身に起きたことをそのまま書き、そしてあるときは、バイク乗りとしてなりたかった自分自身を書く。ずっと昔に、自分が乗るバイクを夢見ていたころからそうしていて、これからもそうです」と、書くことへの思いを述べている。
トネさん自身、実際にスーパーカブを所有しており、「通勤や所用の交通手段として非常に便利でありながら、つい行き帰りに当てもなく走り回ってしまう、カブはそんな存在」と、愛車について評している。
現実の高校生にもスーパーカブの魅力を伝えたい
本田技研工業株式会社では、『スーパーカブ』の書籍化に当たって、製品名をタイトルに使うことを許諾しており、その対応をしたのが二輪広報の高山正之さんだ。
高山さんは、1994年から同社の広報を担当し、スーパーカブの歴史に関しては社内のオーソリティでもある。小説『スーパーカブ』の感想について尋ねた。
「自分が初めてバイクに乗ったときの、楽しさとハラハラ感が共存しているような感覚を思い出しました。バイクで自立していく主人公をついつい応援するような気持ちで読みました」と話す。 創業者である本田宗一郎さんが世に出したスーパーカブは、基本コンセプトとデザインを変えることなく、世界中の人たちから愛され続けている。昭和の経済成長とともに、郵便や新聞の配達、デリバリーなどで使われ、ビジネス車としてのイメージが長く続いた。
高山さんは、「1997年にリトルカブが発売されてから、スーパーカブシリーズは実用車というだけでなく、レジャーの乗り物としても楽しめるという考えが出てきて、いまではそのイメージもかなり浸透しています。趣味でカブを楽しむファンイベントはたいへん盛況ですし、最近では若い人や女性の方々からも支持されるようになりました。スクーターと違って、カブの場合、ギアチェンジやフットブレーキなど、少しモーターサイクルに近い操作が求めらるので、走っていて楽しく感じられます。高校生のなかでバイクに乗る人はまだまだ限られていますが、交通社会への入口としてスーパーカブに触れていただければ、いままで知らなかった世界を覗くことができると思います。小説に描かれたのと同じように、バイクという乗り物は、若い人たちの自立心と責任感を養ってくれる良き“相棒”だと思います」と、話している。
ホンダのスーパーカブシリーズは、2017年10月に世界生産の累計が1億台を達成し、2018年には誕生60周年を迎えた。ホンダが世界に誇る名車中の名車である。
●問い合わせ先
株式会社 KADOKAWA カスタマーサポート
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本田技研工業株式会社 広報部 企業広報課
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