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令和2年7月豪雨災害 民間バイク隊はどう活動したか

「令和2年7月豪雨」で大きな被害のあった大分県由布市と岐阜県高山市。民間ボランティア組織の由布市バイク隊と飛騨高山バイク隊は、それぞれ地元の災害現場へ出動し、道路の被害状況など情報収集に当たった。由布市バイク隊は孤立集落で高齢者の安否確認にも貢献。飛騨高山バイク隊は消防隊員(ドローン班)を通行困難な区域へ輸送し、高度な情報収集にも役立った。

大地震による災害現場で、バイクはガレキのなかを走行し、いち早く情報収集を行うなど、その有用性を示してきた。近年、わが国では大きな風水害が続いているが、水や土砂が氾濫する災害現場でもバイクは役立つのだろうか。今年7月に発生した豪雨災害でバイクがどう使われたか、被害のあった町を取材した。

甚大な被害をもたらした「令和2年7月豪雨」

「令和2年7月豪雨」は、2020年7月3日から31日の間に、日本各地に被害をもたらした記録的な大雨だ。7月3日から8日にかけて九州地方で、7日から8日にかけて岐阜県周辺で猛烈な雨となり、その後も中国地方、東北地方で激しい雨が続いた。
 豪雨災害は、河川が氾濫し、土石流が道路・家屋を破壊する。「令和2年7月豪雨」では、全国で1万8,000戸以上の家屋が浸水などの被害を受け、洪水に流されるなどして83人が死亡、3人が行方不明となっている。
 この災害において、消防や警察、自衛隊などが救命・救助活動を展開する一方、バイクでの情報収集・救援活動に当たる民間のボランティア組織があった。大分県の「由布市災害ボランティアバイク隊」(由布市バイク隊)と、岐阜県の「飛騨高山二輪災害レスキュー隊」(飛騨高山バイク隊)だ。それぞれ地元の災害現場に出動し、バイク隊にしかできなかったであろう働きをみせている。この二つの活動事例をレポートする。

大分県由布市を襲った豪雨――7月7日深夜

大分県由布市では7月7日の朝、市内全域に避難勧告が発令された。深夜になって雨足はさらに強まり、8日午前0時には1時間に90mmを観測する猛烈な豪雨となった。大分川の近くに住む由布市バイク隊のメンバーは、「ものすごい雨の音に混じって、グワングワンというような音が響いていました。川の激流で岩が転がっている音なんです。恐ろしいと思いました」と話す。同バイク隊の隊長を務める小野富隆さん(70歳)は、「70年生きてきて、経験したことのない土砂降りでした。あの夜はみんな眠れなかったと思います。これは大きな被害が出るだろうと思い、気を引き締めました」と振り返る。

由布市防災安全課によると、この夜の雨で市内を流れる大分川やその支流が氾濫し、湯布院を含む3区域が冠水。黒川橋と新竜橋が崩壊した。また、土石流や崖崩れで主要な道路が各所で通行止めとなり、広い地域で断水した。防災安全課長の首藤啓治さんは「警戒レベルを最大に引き上げ、緊張感をもって対応しましたが、大きな被害が出たのは残念です。大規模災害時には、消防・警察などの手が回らない場所や場面も出てくるため、民間ボランティアの協力はたいへんありがたい」と、話す。
 由布市社会福祉協議会(社協)事務局長の栗嶋忠英さんは、「山間にある阿蘇野地区(同市南西部)の住民から『県道が通れそうもない』と連絡がありました。その地区には配食サービスを受けている高齢者もいますので、詳しい状況が知りたかった。『阿蘇野地区が孤立しているかもしれない』と、バイク隊に伝えました」と話す。

土石流で遮断された道路を孤立集落へ

小野バイク隊長は、「社協から正式に要請されたわけではありませんが、そこは阿吽の呼吸です。自発的な活動として阿蘇野地区までの県道の被害状況を調査し、社協へ報告することにしました。私のほかに2人の隊員が同行し、雨の上がった8日の昼過ぎにオフロードバイク3台で出動しました」という。
 阿蘇野地区へ山道を上っていくと、道路には岩や倒木が散乱しており、クルマの通行は一見して不可能。路肩が大きく崩落している場所もあった。隊員は、そうした被害箇所の状況を撮影し、地図上の地点をスマホに記録していった。この情報を社協や防災安全課と共有することで、通行可能なルートの確保と、道路の復旧に役立てようというものだ。

道路の被害がすごい

小野バイク隊長は、「県道はひどいありさまでした。土砂で道路が埋まっていたり倒木があったりしましたが、オフロードバイクなら意外となんとかなるものなんです。ところが、泥と倒木が高く積もってバイクでもどうにもならないところがありました。集落はさらにその先ですから、われわれは道路から外れて、山のなかの通れるところを探しながら先へ進みました」と話す。“山のなか”とは、道のない藪や雑木林のことで、バイク隊のメンバーは日ごろからそうした場所にも分け入って走る訓練を行っているという。

ここで道路を外れて迂回

バイク隊の働きによって、阿蘇野地区へのアクセスは、別の方面から物資を運搬できる迂回ルートが確保できそうだとわかった。しかし、完全に孤立していた民家が2軒あり、住人の安否が気になったバイク隊は、それぞれの家を訪ねて声を掛けてみた。すると1軒は留守だったが、もう1軒には90歳近い女性が1人で残されていた。
小野バイク隊長は「われわれが訪ねると、おばあちゃんは『人がやってきてくれた』と、本当に安心していました。水や食料の蓄えは十分だったので、周囲の被害状況を説明して、家で待機してもらいました」と話す。
当初の目的にはなかったが、こうした安否情報も行政に報告されることになった。まさにバイク隊の機動力による成果といえる。

県全体をカバーできるネットワークを目指す

由布市バイク隊は、2014年12月、民間ボランティアによる県内初の災害救援バイク隊として発足した。現在、県中部地域を中心に、隊員数22人で活動を行っている。
その創設メンバーで、現在、バイク隊の広報を担当している小野精治さん(58歳)は、「災害時に実動する隊員の多くは、隊長をはじめトライアル競技の熟練者で、非常に高い運転スキルがあります。月1回の定期走行訓練などを行っていますが、独自のハザードマップを作成して、地図にもないような険しい林道も把握するようにしています」という。そうした日ごろの訓練が、今回の活動に大きく活かされたといえそうだ。
また、由布市バイク隊の大きな特徴は、隊員のほとんどが「防災士」の資格を取得していること。これによって市の防災安全課や社協との連携を深め、地元の消防・警察と合同で防災訓練を実施するなど、行政との協力関係を築いている。

小野さんは、「民間ボランティアに必要なのは、行政の信頼を得ることです。合同訓練などを通じて、人同士が“顔見知り”になっておくことが大切で、そうでないと緊急時にお互い何も頼めません。そして私たちはあくまでボランティア組織ですから、責任は常に自分たちにあり、危機管理はしっかり図っています」とのことだ。
なお、由布市バイク隊は、2017年9月に「大分県災害ボランティアバイク隊事務局」を設置し、大分県と「緊急・救援輸送に関する協定」を結んでおり、災害時に県からの要請があれば出動することになっている。そしてこれを機に、由布市バイク隊の呼びかけで、2019年11月には「豊肥災害ボランティアバイク隊」が発足、2020年2月には「県北地区・レスキューサポートバイク隊」が発足し、大分県内を広くカバーするネットワーク作りが進んでいるという。
小野さんは、「南海トラフ大地震など大災害に備えて、バイクの機動力を活用した情報収集、緊急物資の輸送など、私たちライダーが社会に役立つ活動を続けていきたい」と話している。

岐阜県高山市の災害でもバイク隊が活躍

岐阜県高山市を中心に活動する飛騨高山バイク隊は、オフロードの耐久レースであるエンデューロの愛好家5人が集まり、2007年10月に結成したボランティアの災害救援バイク隊だ。

現在、バイク隊員は60人に増え、年齢は10代から60代までと幅広く、県外に住むメンバーもいる。組織は「高山市市民活動団体」として登録されており、地域の防災訓練にも積極的に参加するなど行政からの信頼は厚い。
先に述べたように、「令和2年7月豪雨」は岐阜県にも大きな被害をもたらした。高山市では7月7日から8日にかけて非常に強い雨が続き、8日朝に市内全域(約3万6,000世帯)に避難指示が出された。幸いなことに人的な被害は出なかったが、崖崩れが6カ所、道路被害が44カ所で発生、34棟の家屋が浸水した(7月10日集計)。また8日正午の時点で、道路の通行不能により、複数の区域で合計659世帯が孤立していた。
バイク隊の隊長を務める小木曽晃さん(61歳)は、8日午後、高山市危機管理課からの電話を受けた。「孤立した区域の道路状況を調査してほしい」という依頼だった。小木曽さんはバイク隊のLINEを使って、翌日に出動可能な5人の隊員に活動を託した。

次々に立ちふさがる難関を乗り越える

バイク隊の5人は、9日朝、危機管理課の担当者と打ち合わせ、朝日町の秋神貯水池から鈴蘭高原(朝日町西洞)にある別荘地まで、片道約13kmのルートをオフロードバイク5台で走行調査することになった。
隊員の一人、松原大祐さん(35歳)は、ヘルメットにアクションカメラを装着し、目的地区までの状況を撮影した。松原さんは、「豪雨によって道路がどんな被害を受けているか、次々と現れる難関をバイクがどうやって乗り越えたかなど、記録することができました」と話す。

この程度の障害物は簡単に乗り越える

映像を見ると、山間の道路上には岩がゴロゴロと散乱している。これだけでクルマは通行不能となるが、バイクにはほとんど支障がない。しかし被害がひどいところでは、わずかなスペースを残して道路が崩壊していたり、水が流れ込んで路面が川のようになっていたり、土石流ですっかり埋もれた箇所もあった。倒木も多く、ところどころで道を塞いでいる。

1m の高さを超す土砂と倒木をかろうじて越えた

こうした難関ではバイクを降りて、力を合わせてバイクを持ち上げたり、引っ張ったり、倒木をのこぎりで切断したりして前進していった。バイク隊は、昼ごろ無事に鈴蘭高原に到着し、撮影した道路の被害画像を市の危機管理課に送信。現地でキャンパーらに遭遇したが、水や食料に不足がないことを確認できたので、道路状況を説明して帰路についた。

倒木をのこぎりで切断して道を開ける

松原さんは、「鈴蘭高原に至る主要道はかなり被害がありましたが、帰路では、細いながらも被害が少ない迂回ルートを探索できました。この道を先に復旧すれば、鈴蘭高原の孤立が解消されます。この情報を得られたことが、このときの活動の大きな収穫でした」と話す。

消防本部のドローン班とバイク隊の連携

調査から戻ったバイク隊には、次の任務が待っていた。高山市消防本部のドローン調査班3人をバイクに同乗させて、もう一度、鈴蘭高原まで上ってほしいという依頼だった。そこでバイク3台が消防隊員を後ろに乗せ、1台は荷物運搬で伴走し、計4台で鈴蘭高原へ向かった。
先刻確認できた迂回ルートを上ったため、大きな苦労もなく目的地に到達。同乗した消防隊員は、「ドローンは被災状況の撮影に有効で、遠隔操作できる距離は約2kmです。しかし実際には地形などの影響でそれほど遠くまでは飛ばせません。今回のようにバイクで行けるところまで行ってからドローンを飛ばすことで、より有益な情報収集が可能になると思いました」と話す。
バイク隊の橋戸慎二さん(42歳)は、「7年間隊員をやっていて、災害で出動したのは初めての経験でしたが、消防隊員を輸送するお手伝いができたのは貴重な経験でした。趣味のエンデューロのおかげで、ドロドロの土砂のなかを走ることにはまったく抵抗はありません。しっかり安全を確保しながら活動できたと思います。豪雨災害でバイクの機動力を証明できたのは大きな成果で、今後の教訓につなげたい」と話す。
飛騨高山バイク隊は、東日本大震災へのチャリティ活動として、年に数回、市内にあるダートコースを利用して「高山市民原付スクーター耐久4時間運動会」を開催し、地元の若者などが参加し、盛り上がっている。

バイク隊長の小木曽さんは、「原付の運動会を楽しんでくれる若い人たちが、バイク隊に入りたいって言ってくれるのがいちばん嬉しいですね。おかげでバイク隊のメンバーは少しずつ増えています。これから高齢化が進むなか、バイク隊も後継者づくりが課題です。バイクは本当に楽しい乗り物だということと、自分たちの町は自分たちで守るという気持ち、それを若い世代に受け継がせて行きたいと考えているんです」と話している。

●問い合わせ先

飛騨高山二輪災害レスキュー隊(代表・小木曽さん)
URLhttp://nanagi.net/mdrc/

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